猿田彦大神2013年09月07日 16時51分22秒

庚申の夜だというのに
男は眠りについてしまった
不覚にも
深い眠りについてしまった

男の口が突如大きく開き
顎の関節はギシギシと音を立てる
男の口からは
虫が
三尸の虫が這い出してくる

虫は屋根を突き破り
真直ぐ天空へと上昇する
天帝へ
男の悪事を告げ口する為に

江戸時代
民衆の間で大ブームとなった庚申待ち
悪事をチクられては大変だと
その夜は皆で集まって寝ないことにしようと
朝まで酒を飲んだり祈祷をしたりして過ごす

それにしても
悪事をしないようにしようとは思わないのが
昔の人のすごいところだ
日本中いたるところに
3年(18回)連続開催記念の庚申塔が建立される

いつもは早く寝なさいと怒られるのに
今日は寝ちゃだめと怒られる子供達や
憧れのあの娘に会えるのでウキウキする若者など
想像するとなんだか楽しそうな集いだが
二ヶ月に一度の定期開催は
さすがに鬱陶しい感じもする

明治以降
庚申待ちは迷信として排斥され
街道筋の庚申塔は悉く破壊される
太陽暦への転換で
三尸の虫もいつ出てきたらいいのか
腹の中で悩んでるに違いない

現代においては
自然災害による緊急避難くらいしか
近所の人が一堂に集う機会などない
コミニュケーションツールが発展すればする程
人と人の距離は何光年も遠ざかる




巣鴨庚申堂 猿田彦大神
東京都豊島区巣鴨4-35-1

威徳稲荷大明神2013年09月17日 23時15分36秒

新宿のど真ん中に突如現れる巨大な男根
艶やかな女の白い手が
愛おしそうにそいつを撫でる

新宿花園神社の境内社のお稲荷さんに
木製の巨大な男根が祀られている
無機質な高層建築群の奥底で
こんな過去の牧歌的なものを見つけると
救われた気になる

だけど男根崇拝の心理は
過去のものだけでもないようだ
オリンピックの東京開催が決まり
経済効果が高まるらしい
仕事が増えて結構なことだが
それに便乗して
お台場にカジノを作るだの
地下鉄を24時間にするだの
欲を助長すれば経済が上向くだろうなんて
馬鹿にしやがって
行政の考えることはいつの世も
どうせ碌なもんじゃない
これから先
いくつもの男根を載せた神輿が登場するんだろう

アスリートのストイックさは学ぶべきことだ
勝利のひととき乱痴気騒ぎをするのも大いに結構
だけど
ヒステリックな健康指向や
上っ面のナショナリズムや
体育会的なファシズムを強要するのは
どうにも勘弁してくれ

男根崇拝的でまた兵隊気質丸出しの
奴らの下卑た冷やかしが僕の心臓を荒ませた
(「裏切られた心臓」A.ランボー、堀口大學訳)




威徳稲荷大明神
東京都新宿区新宿5丁目17-3 花園神社境内社

鬼王神社2013年09月29日 18時38分48秒

姉さん
あいつはこの俺に
吐き出したものを食わせようとしたんだぜ
俺はとんでもなく気持ちが悪くなっちまったんだ
だから叩き斬ってやったんだよ
何が悪いんだよ
なあ
姉さん

保食神ウケモチノカミを惨殺した
月読命ツクヨミノミコトの弁明に
アマテラスは激怒する

無惨にも切り捨てられた保食神の身体からは
穀物や米が溢れ出し
人々の永劫の繁栄を約束する

もうお前とは決して顔を合わせまい
お前は夜の国へ
私は昼の国へ

今上天皇へと脈々と繋がるアマテラスとは対象的に
月読命はこれきり記紀神話から姿を消す
三貴子の一人であるのに
これきり姿を消す

新宿に鬼王の名を冠する神社がある
熊野から鬼王権現が勧請されたという
鬼王権現とは
月読命、大物主神、天手力男命のことだという
なぜ鬼の王なのかさっぱりわからない
今や熊野には鬼王権現の痕跡はなく
何が何だかさっぱりわからない

そして
将門が登場する
将門の幼名が鬼王丸だという
ここは将門による結界の重要ポイントなのだという
神社の正式な由緒には将門の名は出てこない
何が何だかさっぱりわからない

天皇になれたかもしれない二人
天皇になり損ねた二人
そんな二人が
気の遠くなるような
歴史の中で交差し重なったのかもしれない

それにしても
この神社の境内はいつ来ても
心がざわつく
まるで
眩しい明け方の空に
残月を見つけた時のような



稲荷鬼王神社
東京都新宿区歌舞伎町2-17-5