前川神社2018年07月22日 12時04分33秒


MIKIはまだ二十歳そこそこ
それこそそこいらにいくらでもいる
まるで普通の娘だ
酔っ払ってカラオケでついつい
衣服を脱ぐのが癖ではあるが
仲間達の泥のような笑いに囲まれて
瞬間だけの高揚を貪る

ネットゲームに興じては
誰かが仕組んだルールと秩序に従う
明け方外に出てふと気づく
この掌に得たものは何も無かったと
コンビニの袋がカサカサと鳴る
LINEした友達から来るのは
公衆便所の落書きより劣る
無個性な記号の羅列

どうして私は満足できないんだろう
何があれば満足できるのだろう
そもそも満足とは何だろう
みんな一所懸命に
一体何を追い求めているのだろう

MIKIはまだ二十歳そこそこ
それこそそこいらにいくらでもいる
まるで普通の娘だ
ゲームで知った信長の化身
まだ幼さすら残る
華奢な背中一杯に掘られた刺青は
第六天魔王

関東を中心に広く分布する第六天
明治政府はこれを嫌い弾圧し消されていった神
もともとは仏教に由来する神様で
人々の快楽を自らの快楽にしてしまう
他下自在天というのが正式名称

人間が喜んでいるのを眺めては
私も同時に喜びを感じますという優しい神
くらいにしておけばよかったものを
どう解釈したものか
欲を満たせば神も喜ぶんだろと
人々は果てしなく欲の充足に走り快楽を貪り
男女の交淫は神に操られてやってるんだという理屈で
働きもせず性交に耽る輩が正当化される

織田信長が自らを第六天魔王と嘯いたほど
明治以前まではこの神は大流行していたらしい
当時の人々がこの神を強く求めたということは
逆に言うと全く彼らは
欲の充足が果たせなかったということなのだろう
ここ江戸川の前川神社周辺は
そう遠くない頃まで農村だったらしく
きっと満足できない思いを抱く毎日を送る人々がいて
そしてそこから決して
抜け出すことができない日々は続き
酒を飲むくらいしか
快楽の神様に祈ることくらいしか
人々は出来なかったのかもしれない
やれることはそれくらいしか
なかったのかもしれない

「AKIKOは16
ダウンタウン生まれ
闇のハイウェイで
短い夢を見た

Just a 16 本当は
親も何も知らない
Just a 16 本当は
ダチ公も何も知らない
Just a 16  Just a 16
昼も夜も知らない
Just a16 本当は
神もわかっちゃいない」(ARB「Just a 16」)

前川神社

前川神社

前川神社
東京都江戸川区江戸川1-6-1

亀戸香取神社2017年06月04日 22時21分12秒


ふつ ふつ ふつ
鋭利な刃先が彼奴の肉を削ぐ
ふつ ふつ ふつ
神の宿る剣
肉を断つ音

まだこのような平らな台地はそこになく
幾つもの小さな島が海の上に顔を出し
魚やら水藻やら
人はそこに糧を見つけ
日々を暮らす
とはいえ
そのような長閑な風景だけではない
すでにクニの支配構造は始まっている

支配者はいつも西からやってくる
最初に来たのは誰だ
亀戸香取神社の由緒によれば
藤原鎌足がここに神社を置いたのだそうだ
本当のところは誰にも解らないが
その頃すでに遠く大和朝廷の
支配が及んでいたということは言える

政治色のある神社が置かれるくらいだから
何らかの重要な拠点が
ここにはあったのかもしれない
このエリアの海運のボスとその集団
漁民であり時に兵力となるなど
きっとその始まりは
大和朝廷をさらに遡るだろう

祭神である経津主神フツヌシノカミは
藤原氏の祖神ということになっているが
その名前から
物部氏の匂いがする
フツは刃物を表すそうだ
そこら辺の話は
下総国の香取神宮で
いつか読み解きたいと思う

今や何故かこの神社は
スポーツ振興の神様になっている
吉田沙保里さんなど
有名アスリートが訪れているらしい
この日も色鮮やかな市民ランナー達や
サッカー少年達で
境内は賑わう
かつては亀戸三業地で賑わったことなど
誰も言わないし知りたくもない
ひっそりと
あの第六天が末社で鎮座するのを
誰も振り返らない

亀戸香取神社

亀戸香取神社

亀戸香取神社
東京都江東区亀戸3-57-22

亀戸香取神社

稲足神社(境内末社)
祭神 面足神 惶根神 金山毘古神 宇賀御魂神

高木神社2015年01月31日 19時19分02秒


突然に空が掻き曇ったかと思うと
雲の上で何千という馬が駆け回る音
真っ黒で分厚い雲を掻き分けて
玉や黄金で飾られた楼閣が姿を現わす

そこは会議場であった
まだ開始前の騒ついた中
集まった者たちは皆一様に
異様な姿をしている

ある者は八本の腕に六本の足
一つの頭に三つの顔
鉄の盾と金の鎧を身に纏う

そして上座には
20mはあろうかという巨人が
轟音を立てて席に着いた
十二ある顔が
二十四の眼球が
列席を睥睨している

会議が核心に迫ったその時
奴が現れる
黒い兜の前面に金文字で書かれたその名
第六天魔王

奴は野太い声でこう言い放った
俺が後鳥羽院の心に
鎌倉幕府滅亡の欲を
たっぷりと注ぎ込んでやるさ

その後
第六天が言った通り
後鳥羽院は
時の執権北条義時追討の院宣を発布
挙兵する
世に言う承久の乱である

天皇をも狂わせ
世を乱すパワーを持つ魔王が
なぜ民衆によって信仰されていったのか
都内だけ見ても第六天を祀る神社は
いわゆる江戸の町の周辺部に数多く見られる

承久の乱の後
行政の覇権を巡って
混乱の歴史が続いていく
二つに分かれる朝廷
天下統一を目指し戦乱を繰り返す武士達
そんな歴史の表面には決して出てこない
行政の混乱に翻弄される民衆の姿
慎ましくも逞しく
変えることのできないこの現状を打開してくれと
最強の魔王に縋ったのかもしれない

押上にある高木神社は
かつて第六天を祀る神社であった
昔この辺りは寺島村といって
新田開発による農地が広がっていたらしい
恐らく明治政府による淫祠廃止の令を受け
皇室の祖神の一つである
高皇産霊神タカミムスビノカミに
今はその座を静かに譲っている

高木神社

高木神社

高木神社
東京都墨田区押上2-37-9

神々森猿田彦神社2014年12月20日 14時41分04秒


森は生命で溢れ返っていた
植物と動物と昆虫が
菌類と地衣類と粘菌が
光合成と生殖と腐敗を
永遠のように繰り返し
光を遮られた湿った空間には
100億の胞子が飛び交っていた

人々は森を畏れ
森には神が宿ると思ってた
森を破壊するなんて
とんでもないと信じてた
その森は
神々森カンカンモリと呼ばれてた

その神の目は大きく見開かれ
鋭い眼力で邪悪なものを撃退し
森の境界を守護していた
何百年もの間

明治時代
熊野の地で一人の男が
鎮守の杜を破壊するなと
明治政府に楯突いた

その男の目は大きく見開かれ
森の固有の生態系を破壊するなと
明治政府に喧嘩を売った

熊野の森は守られ今や世界遺産となって
似非エコロジスト達などに
持て囃されたりしてるわけだが
ここ神々森は僅か100年の間に破壊され
今や境内に銀杏の木が一本あるだけ
ここに嘗て森があったなんて
もう容易くは想像できない

それでも銀杏の木をよく見ると
その樹皮にはびっしりと
地衣類が蔓延っている
控え目にしかし強かに
音もなく蔓延っている

この神社には猿田彦の他に
第六天が鎮座している
汐入の第六天が一時遷座したとのだという
明治政府の迫害から逃れるため
森に身を隠したのかもしれない

神社の裏手には朝鮮学校
ここも森の跡なのだろうか
邪悪な言葉を吐く心無い化け物を
撃退する神は
いないものか




神々森猿田彦神社
東京都荒川区東日暮里3-8-8

胡録神社2014年11月27日 22時50分33秒


整然としたマンション群
規格された街路
どこか高い所で
母親が布団を叩く音
呆然と
いつまでも横断歩道を渡れない
手押し車の老婆

大規模な再開発によって
生まれ変わった街
区画割から全て真っ更に
過去の名残をほぼ完全に消し去った街

この無機的な空間を打ち破るように
忽然と
神社が現れる
木造の社には
またもやあの第六天が鎮座する

戦に敗れ流れ着いた武士団
彼らはこの地を開墾し
ここを永住の地とした
江戸切り絵図では
この地が田んぼであったことを確認できる

明治以降だろうか
徐々に民家が増え始め
昭和の航空写真では
密集した民家が町を形成しているのを確認できる

空襲を逃れたこの町は
戦後も長くその雰囲気を保ち続け
ノスタルジックな町全体を文化財さながらに
メディアが取り上げたこともあったという

江戸の端っこ
川のカーブの末端
逃げてきた者にとっては相応しい地であったろうか
恐らくは
他社の侵入を排し
為政者の支配を拒み
独自のルールの下
彼らは生活を続けた
時に
外界で生きられない者が境を超える
第六天がそんな人々を受け入れる

閉ざされた世界とその境界は
行政と巨大資本の結託でほぼ完全に破壊された
密集した木造建築は次々に解体撤去され
一時は茫漠たる草地が広がっていたという
住民は懐かしい住み慣れた家から
等価交換によるマンション住まいを選択した
町の境界は消え去り
人々はハコの中の閉空間を目指す

第六天が結びつけるコミュニティが
今も有効なのかは私は知らないが
少なくともこの立派な木造の社は
土地の記憶を亡霊のように蘇らせ
どこまでも自閉していく時代に抗う

胡録という名前は
尤もらしく色々言われているが
ダイロクテンの大が駄目なら小にするさ
ってくらいな話なんじゃないかな
胡という字には
「でたらめ」「いいかげん」という意味もあるらしい
あなたたちが禁じるダイロクテンではない
でたらめなロクテンなのさと
なんとも人を食ったネーミングではないか
権力者の力には
こうやって抗うべきだ



胡録神社
東京都荒川区南千住8-5-6