千早神社2016年11月03日 21時58分33秒


後醍醐天皇は夢を見た
大木を見上げている
芳香が鼻をつく
葉は悉く南へ向かって茂り
南枝の一つは天を駆ける龍のようだ
雲に乗った二人の童子が現れ
こう言った

南枝の指す方角
そこが常に帝にとっての安泰な御座
どうか南枝を頼りに

後醍醐天皇は目覚めた
夢か
南枝
南の木
此処らに楠という名の者はおるか

伝説が伝説を産み
物語は不可逆的に膨張する
英雄譚を象徴化したその時
身勝手な民衆を統べることに
為政者は成功した

現政権を否定するクーデターは勝利し
そのクーデターは維新と呼ばれ
生き残りの暗殺者は総理大臣になり
江戸城は権力者たちの遊郭になる

静かに眠っていた南朝の亡霊達が
次々と呼び起こされる
500年以上放置されていた
こんな山奥の廃城に
突如絢爛な神社が建立される

教科書は子供達に
天皇への忠義のために戦い
最後には自決する
武将のことを教えた
このようになりなさいと
このように生きなさいと

そのように育った僕等の先輩達は
天皇への忠義のために
敵艦へ突っ込んで行ったり
手榴弾を胸に当て自決を選んだりした

戦争に敗れ
教科書から楠木正成は消えた
忠義なんていう言葉を
もう誰も理解できない

皇統が真っ二つに分裂した歴史
英雄を神様に仕立て上げた歴史
忠義と忠君を教えていた歴史
そんな風に歴史を教えてくれるなら
授業中に居眠りなんてしなかったのに

たかだか百年前の
自分の国の歴史すら
まともに語れない国
金剛山の千早神社には今だって
楠木正成が神として鎮座しているのに

ハロウィンのお祭り騒ぎが
空々しく感じるのは
歴史と神が不在だから
なのかもしれない

千早神社

千早神社

千早神社

千早神社
大阪府南河内郡千早赤阪村大字千早