江島杉山神社2013年11月09日 19時04分12秒

杖を突いた盲人が一人また一人
続々と此処に集まる
琵琶法師、鍼灸師、按摩
此処は
関東周辺の盲人を統括する施設であり
統括監督者に杉山和一という男がいた

幼くして失明した杉山は
江ノ島の岩窟で断食祈願し
管鍼式という画期的な鍼治療法を発案
その後も修行を重ね名声を高め
五代将軍綱吉の治療を行う程に上り詰める

此処には鍼治療の教育施設が併設され
集まった盲人達は治療のやり方を学ぶ
まさに世界初の身体障害者教育施設であり
杉山は革新的技術を核に
障害者に職業を与える仕組みを
創ったイノベイターであった
無理矢理企業に障がい者雇用を義務付けるしか
能の無い現代の行政とは雲泥の差である

杉山は綱吉に何が欲しいかと問われ
一つ目が欲しいと答える
綱吉は竪川に掛かる一つ目橋の辺りに
土地と屋敷を与えたという
まるで一休さんのような話が残っている

キリストは盲人を治したらしいが
奇跡など決して求めてはいけない
自分の心と身体だけが自分なのに
いつでも僕らは
持ち物を増やし立ち位置を気にし
それが自分だと勘違いしてる
身体の限りに自分の道を地道に極め
自分の頭で考え智慧を発揮し
続く人達を育て継承していく
そんな生き方にこそ
学ぶべきだと思うが




東京都墨田区千歳1-8-2
江島杉山神社

野見宿禰神社2013年07月07日 15時57分48秒

両国はお相撲さんの街
この街を訪れると
ポストに手紙を出しに行くお相撲さんや
花屋でお花を買って帰る途中のお相撲さんなど
テレビでは見られない日常のお相撲さん達を
見る事が出来る

そんな相撲の街両国に
相撲の神様が祀られた神社が在る

垂仁天皇の時代
当麻蹶速タギマノクエハヤという天下の力持ちが
俺より力のある奴と勝負がしてぇと豪語
出雲より野見宿禰ノミノスクネが
勝負のために招かれる

二人は向かい合い睨み合い
緊迫した空気が流れる中
角力は蹴り合いから始まり
野見宿禰が当麻蹶速のあばら骨を踏み砕き
さらには腰の骨を踏みくじいて
殺してしまう
勝者、野見宿禰は強さを認められ
その後天皇に仕えることとなる

野見宿禰は智慧者でもあった
当時天皇の系統の者が亡くなった場合
その墓に生きた人間を一緒に
多数生き埋めにする習わしがあった
ある時
生き埋めにされた人々は
なかなか死なず
昼夜泣き喚く声が続き
遂には死んで腐敗した死体を
犬や鳥が集まって食べるという
おぞましい状況となる

野見宿禰は
土で人や動物の形を造り
今後は生きた人の代わりに
陵墓に埋める事にしましょうと
天皇に進言する
埴輪を発明した野見宿禰の子孫は土師氏と呼ばれ
代々の天皇の喪葬を司る一族となる

両国は死者の街
江戸の大火では焼死者10万8千人が回向院に葬られ
関東大震災では横網公園(旧陸軍被服本廠)で
4万4千人が焼死
東京大空襲では焼夷弾が雨のように降り注いだ

死者は無念と怒りを抱いたまま
この両国の地で地霊となる
野見宿禰の末裔であるお相撲さんが
四股を踏み
土地の下で蠢いている
夥しいほどの地霊達を
抑えているのだ



野見宿禰神社
東京都墨田区亀沢2-8-10

玉ノ井稲荷〜濹東綺譚2013年03月20日 13時17分38秒

ラビラント
永井荷風はこの街をそう呼んだ
足しげく通うドブと蚊の溢れる私娼窟に
一体何を見たのだろう

「ぬけられます」の看板
タイル貼りの柱とアシンメトリーの建築
窓から白粉の女が誘う
曲がりくねった細い路地が永遠に続くかのような

梅雨明けから秋の彼岸までの束の間
互いに素性を語らず聞くこともなく
男と女は言葉少なに同じ時を過ごす
そして
唐突な幕引きで物語は最上級の美しさに昇華する

濹東綺譚はここを舞台にしている
迷宮のような町並みはそのままだが
僅かだが赤線時代の建築は残っているが
今では普通の住宅地と商店街でしかない

時代は変わり
娼婦がフーゾク嬢と呼ばれ
相変わらず男と女の束の間の物語は夥しく生まれてはいるが
今やそれを美しく見ることも記すことも
誰にも興味が無いようだ

「お雪は倦みつかれたわたくしの心に、
偶然過去の世のなつかしい幻影を彷彿たらしめたミューズである」
永井荷風、最高に格好いい

濹東綺譚に何度も出てくる玉ノ井稲荷
曹洞宗東清寺に合祀されている
狐だけが往時のものだろうか
たぶん




玉ノ井稲荷
東京都墨田区墨田3−10−2