徳之山稲荷神社〜横網町公園2017年08月06日 17時56分06秒


手下の数は200を超える
東海道筋を荒らしまわった大盗賊
男の名は
日本左衞門ニッポンザエモン
長身で色白
鼻筋通った色男であった

本名は浜島庄兵衛といったらしい
そのカリスマ性から
日本という異名がついたのか
国の名を冠するなんて
余程のことだな

悪代官を斬ったことで
指名手配され捕縛
処刑後間もなく
歌舞伎のモデルになるくらいだから
民衆からも絶大な支持を
受けていたようだ
鼠小僧や石川五右衛門など
どうも江戸時代の人は
お上に楯突く
大泥棒が大好きだったらしい

ここ徳之山稲荷神社の境内には
日本左衞門の首洗井戸跡の碑がある
実際の処刑場所は
小伝馬町の牢獄か
遠州の刑場らしいのだが
そんなことはどうでもいい
歌舞伎の演目が現実を凌駕するのは
江戸の人の得意とするところだ

さて
この徳之山稲荷のすぐそば
横網町公園を訪ねる
関東大震災で避難した人々が
周りからの炎に囲まれ逃げられず
焼死した場所だ
その数5万8千人
厳かな慰霊堂が建立され
遺骨が納められた

その後
昭和20年3月10日
アメリカが
この町に大量の爆弾を投下する
びっしりと木造建築が建ち並ぶ町は
アメリカの計算通り
一気に炎に包まれ
10万人以上の人が焼け死んだ
この慰霊堂に
併せて遺骨が安置されている

今日は広島原爆の日
国名を冠するに価するリーダーが不在の国
自分の頭で考えない薄い話は
もういらない
そんなに憲法書き換えて
戦争したいのなら
併せて慰安所も作る条文を
織り込んでくれよな

公園のベンチでiQOSを吸う
B-29が飛び交った空
二度も大きな悲劇を被った町
お相撲さんが四股を踏んで
地霊を抑えてくれてる間は
きっと大丈夫だ

徳之山稲荷神社

徳之山稲荷神社
東京都墨田区石原1-36-10

横網町公園

横網町公園

横網町公園
東京都墨田区横網2-3-25

秋葉神社〜原色の街2017年05月28日 18時58分14秒


日没が軒を焼き始める頃
細長く開いた路地の入り口から
どろりと色が溢れ出した

揺れるネオン
唇と爪
見たこともない赤が目を焼く

ピンクの布がひらひらと垂れ
柱の碧いタイルは宝石のように輝く
此処では女の肌だけが
無限に白い

空襲で被災した玉の井遊郭の
数件の業者が場所を変え
開業したのが鳩の街の始まり

敗戦後は性欲逞しいアメリカ兵のための
慰安施設として営業していたが
やたらと性病に罹ったらしく
OFF LIMITSの紙が貼られる

何もかも失っちまった日本人は
性病なんて屁でもねえと
言ったかどうかはわからないがその後
昭和33年までわずか10年ほど
日本人向けの赤線として毎夜
狭い路地を原色の炎で焼いた

今日と同じ明日が来ると
皆んなが皆信じているが
戦争ってえのは
一晩で人間の境遇を
ガラリと変えちまうものらしい
爆弾に当たって死んじまうのは勿論
会社も工場も灰になるし
親の金でいくらでも遊べたお嬢さんが
売春婦になったりする
そんな戦争を
なんだかやりたがってる風潮があるな
70年かけて腑抜けになった僕ら日本人には
どうせ無理な話だよ

鳩の街商店街の入り口から
水戸街道を渡ったところに
秋葉神社がある

己れの燃え上がる躰で
母親の産道を焼き膣を焼き
死に至らしめた火の神
腑抜けた日本人の姿に
きっとこう言うだろう

原色の炎を燃やすパワーすら無いくせに
巨大な不幸を
再び繰り返すつもりなのか

秋葉神社

秋葉神社

秋葉神社

秋葉神社
東京都墨田区向島4-9-13

三囲神社2017年04月23日 17時11分14秒


砂塵の中をキャラバンが行く
砂に焼けた頬
乾いた眼窩
陽は未だ落ちない

彼等の目的は何だ
東へ東へ
商品は運ばれる
産み出す利益こそが
彼等のモチベーションだ

地位や名誉には興味がない
歴史に名など残すものか
俺達は商人だ
東へ東へ
こんな海峡など
越えてしまえ

歴史が始まるもっと前から
続々とこの国に商人集団がやって来る
動物を獲ったり
木の実を摘んで
その日その日を暮らしてたこの国の人々は
海の向こうの見たこともない品々と
米や鉄を生産しては売り歩く
初めて見るビジネススキームに驚愕し
モノの価値という概念を知る

歴史が始まる頃にはすでに
彼等の王国は築かれていた
だが商人は歴史に名など残さない
秦氏など名を残す者は
政治介入の夢でも見てたものか

どうやら彼等が
鳥居を建てて社を建てて
神様を祀る神社の形式を
この国に持ち込んだらしい
彼等の神様の名は
倉稲魂命ウカノミタマノミコト宇迦能魂命
神社の数では日本で一番の
お稲荷さんのことである

戦乱の歴史が続く中でも
商人達は西へ東へ
この国中を駆けずり回る
歴史に名など残さない
だけど時代の
主役は俺達なのさ

江戸時代には名を馳せる豪商が登場する
江戸に進出してきた三井家が
この三囲神社を奉斎するのは
何も偶然ではなく
あの古代商人の神様ウカノミタマを
祀っているからだ

明治の世となり
武士が刀を捨て西欧に渡り
初めて見るビジネススキームに驚愕する
経済の仕組みを西欧から取り入れた
なんて言っているが
明治政府の田舎侍が無知だっただけで
歴史が始まる前から綿々と
古代商人の末裔達によって
既に専ら経済活動は行われていたのである
そしてその出自は
模範とすべしと言われた
シルクロードの起点に
繋がるのだ

大学出たら企業に就職してと
皆が商人になりたがる時代
砂漠の果てに
夢の国ジパングはあるだろうか

三囲神社

三囲神社

三囲神社

三囲神社
東京都墨田区向島2−5−17

高木神社2015年01月31日 19時19分02秒


突然に空が掻き曇ったかと思うと
雲の上で何千という馬が駆け回る音
真っ黒で分厚い雲を掻き分けて
玉や黄金で飾られた楼閣が姿を現わす

そこは会議場であった
まだ開始前の騒ついた中
集まった者たちは皆一様に
異様な姿をしている

ある者は八本の腕に六本の足
一つの頭に三つの顔
鉄の盾と金の鎧を身に纏う

そして上座には
20mはあろうかという巨人が
轟音を立てて席に着いた
十二ある顔が
二十四の眼球が
列席を睥睨している

会議が核心に迫ったその時
奴が現れる
黒い兜の前面に金文字で書かれたその名
第六天魔王

奴は野太い声でこう言い放った
俺が後鳥羽院の心に
鎌倉幕府滅亡の欲を
たっぷりと注ぎ込んでやるさ

その後
第六天が言った通り
後鳥羽院は
時の執権北条義時追討の院宣を発布
挙兵する
世に言う承久の乱である

天皇をも狂わせ
世を乱すパワーを持つ魔王が
なぜ民衆によって信仰されていったのか
都内だけ見ても第六天を祀る神社は
いわゆる江戸の町の周辺部に数多く見られる

承久の乱の後
行政の覇権を巡って
混乱の歴史が続いていく
二つに分かれる朝廷
天下統一を目指し戦乱を繰り返す武士達
そんな歴史の表面には決して出てこない
行政の混乱に翻弄される民衆の姿
慎ましくも逞しく
変えることのできないこの現状を打開してくれと
最強の魔王に縋ったのかもしれない

押上にある高木神社は
かつて第六天を祀る神社であった
昔この辺りは寺島村といって
新田開発による農地が広がっていたらしい
恐らく明治政府による淫祠廃止の令を受け
皇室の祖神の一つである
高皇産霊神タカミムスビノカミに
今はその座を静かに譲っている

高木神社

高木神社

高木神社
東京都墨田区押上2-37-9

牛島神社2014年04月12日 18時49分15秒

姐さんは長唄の稽古の帰り道
背筋の通った凛とした歩き方で
行き交う誰もが振り向き目で追う

夕暮れに姐さんは
子供の頃に歩いた土手を思い出す
散った桜の花びらが海を目指して流れてく
たくさんの時間が流れて
こんなとこまで何しに来たんだったっけと
夕暮れに姐さんは立ち止まる

真面目に稽古しない半玉に苛立ったり
昨夜怒らせてしまった客のことを思い出したり
それでも姐さんは背筋を伸ばし
さあ仕事だとまた
凛とした姿で歩き出す





牛島神社
東京都墨田区向島1-4-5