王子稲荷と装束稲荷2013年03月02日 21時07分44秒

大晦日の夜
母ちゃん、青い火がいっぱいお稲荷さんに向かって登っていくよ
あれは狐火、大晦日には関八州のお稲荷様の狐が王子稲荷に集まるの
ほら、あの榎の下が集合場所でみんなあそこでお着替えやおめかしをするのよ

現在、装束稲荷から王子稲荷までの真直ぐの道は
JR京浜東北線の鋼鉄の線路で分断されている
狐達はさぞや困ったことだろう
だけど大丈夫
狐達のためにちゃんと線路を潜る地下道が用意されている
大晦日の夜
王子稲荷の境内をにぎわす人々のほとんどは
実はおめかしした狐達なのだそうだ



王子稲荷神社
東京都北区岸町1丁目12−26

装束稲荷神社
東京都北区王子2丁目30−14

湯島天神2013年03月03日 18時27分56秒

まだまだ寒いと思ってたのに
境内は梅まつりで賑わっている

由緒によると菅原道真が祀られる以前
1500年も前に雄略天皇の勅命によって天之手力雄命が祀られたのが始まり
日本書紀など読むと雄略天皇といえば
なんだかプリプリ怒ってヒョイヒョイ人を殺してしまう暴君のイメージ
徳の無い人物がリーダーになると周りがものすごく苦労するのは
いつの世も変わらない

群馬県の稲荷山古墳から出土した鉄剣に
金文字でワカタケル大王とあるのが雄略天皇のことだという
権力が東国にまで及んでいた証拠だ
だとすると
湯島天神の起源もまんざらではないということか

長い時間の中で位置づけや意味付けが変遷し
今や受験生に大人気の神社であるが
人ごみを離れた境内の片隅にはひっそりと
古代の暴君の権力の痕跡が
戸隠神社として今に残っている



湯島天神
東京都文京区湯島3−30−1

第六天神社2013年03月07日 21時57分51秒

第六天という一大ムーブメントがかつて在った
主に関東で流行したらしいがその分布は東北から九州までと幅広い
明治政府はこの信仰をすさまじく排斥した
名前を変えたり
神様を入れ替えたりと
生き残りを賭けた戦いが繰り広げられた
そんなにも民衆を引きつける大きな魅力に溢れていたということだろうか

第六天とは神代七代の六番目の夫婦神
「ええ女やなぁ」と言った男神が面足命(オモダルノミコト)
「ややわぁ」と言った女神が惶根命(カシコネノミコト)
ということになっているが
仏教の神様である第六天魔王のことでもあるらしい
織田信長をも熱狂させたこの魔王
身の丈二里、16000歳の長寿を持ち、男女に対し自由に交婬・受胎も可能
他人の楽しみごとを己のものに変える法力を持つ
そうで
欲から抜け出せない我々民衆としては
なんとか欲を満たしておくれと縋ったであろうし
残酷な日常に快楽を希求したであろうし
セクシャルな宗教儀式などの淫靡なイメージも湧く
排斥されたのはそんなアナーキーな臭気のせいかもしれない

訪れたのは東中野にある第六天
住宅が密集した中にぽっかりと何も無い空間が浮かび上がる
ちっぽけな祠に過去の熱狂は見つからない

この規模の神社は地図に載ってないことが多いのだが
市販の地図でもgoogleマップでも
俺はここにいるんだぜと
堂々とその存在を主張している


第六天神社
東京都中野区東中野1−15−9


兜神社と澁澤栄一2013年03月09日 19時03分59秒

東京証券取引所の巨大な建物のそばに
この神社はある
現在でも証券業界の鎮守として信仰されているという

過去この地には澁澤栄一によって創られた日本で最初の銀行
第一国立銀行(現みずほ銀行)があった
敷地内には澁澤栄一の居宅もあったという

神社はそれ以前からあった
この地には平将門の兜が埋められている
あやかったのだろうかその後、源義家が岩に兜を懸けて戦勝を祈願したり
兜を埋めたりしている

日本の資本主義経済の礎を築いた澁澤栄一はビッグな男だ
エイちゃんと言えばヤザワではなくシブサワのことにしたいくらいビッグな男だ
明治維新後いち早く
銀行、証券取引といった民間資金の流動化による経済発展の仕組みを取り入れ
今につながる東京ガス、東京電力、王子製紙、東京海上火災保険、太平洋セメント‥
とあげると切りがない程の企業の立ち上げに携わった男だ

澁澤栄一はここが将門パワーに溢れる地であることを知っていた
王子の飛鳥山の別荘(後に本宅)にこの兜神社を分祀して身近に置くほど信仰していた
銀行と証券取引所の創設という
日本の経済のスタートに相応しい場所としてこの地を選んだのだ

澁澤栄一は財閥を作ったりはせず、慈善事業や教育事業などにも尽力する
「私利を追わず公益を図る」を生涯貫き通した
だが、死後その思想が継承されたとは言えない
岩崎弥太郎から始まる私利を追うだけの経済原理が当たり前のように現在に繋がっている

日々経済活動を続ける我々は覚えておくべきだ
現在の日本経済の発展は
澁澤栄一と将門パワーから始まったということを





兜神社
東京都中央区日本橋兜町1−12
祭神はお稲荷さんと大国主命と事代主命、平将門の名前は何処にも無い


玉ノ井稲荷〜濹東綺譚2013年03月20日 13時17分38秒

ラビラント
永井荷風はこの街をそう呼んだ
足しげく通うドブと蚊の溢れる私娼窟に
一体何を見たのだろう

「ぬけられます」の看板
タイル貼りの柱とアシンメトリーの建築
窓から白粉の女が誘う
曲がりくねった細い路地が永遠に続くかのような

梅雨明けから秋の彼岸までの束の間
互いに素性を語らず聞くこともなく
男と女は言葉少なに同じ時を過ごす
そして
唐突な幕引きで物語は最上級の美しさに昇華する

濹東綺譚はここを舞台にしている
迷宮のような町並みはそのままだが
僅かだが赤線時代の建築は残っているが
今では普通の住宅地と商店街でしかない

時代は変わり
娼婦がフーゾク嬢と呼ばれ
相変わらず男と女の束の間の物語は夥しく生まれてはいるが
今やそれを美しく見ることも記すことも
誰にも興味が無いようだ

「お雪は倦みつかれたわたくしの心に、
偶然過去の世のなつかしい幻影を彷彿たらしめたミューズである」
永井荷風、最高に格好いい

濹東綺譚に何度も出てくる玉ノ井稲荷
曹洞宗東清寺に合祀されている
狐だけが往時のものだろうか
たぶん




玉ノ井稲荷
東京都墨田区墨田3−10−2