津の守弁財天2013年07月21日 16時58分50秒

石段を底の方へと
写真家は降りていく
擂鉢の底へ
エロスとタナトスを探して
写真家は降りていく

美濃国高須藩藩主、松平摂津守の上屋敷が
明治維新の後開放され
擂鉢状の地形の底に
溜まるように花街が形成された

擂鉢の底には
4mに及ぶ滝があり
池の畔の弁天様は
町人に人気があったのだろう藩主を偲び
津の守弁財天と呼ばれるようになる

男達もまた
花街を目指し降りていく
三味線の音と
白粉の匂いの溜まる
擂鉢の底へ
降りていく

酔狂の果てにも
欲は満たされることなく
擂鉢の底に溜まり続けるが
傍らに置かれた弁財天が
生から死への出口装置として機能し
人はその装置をくぐらないまでも
再び生きるということを
思い出すのかもしれない

無機的に計画された都市整備には
そんな出口装置が無い為に
人は出口を探して彷徨い
無理矢理こじあけた扉の向こうへ
行ってしまう

この町と同じ名前の天才写真家は
1枚の写真にエロスとタナトスを同時に焼き付ける
この町を写した
あの猥雑なノイズに満ちた被写体を探してみたが
擂鉢の底から見上げても
なんだか間の抜けた空が広がってるだけだ





津の守弁財天
東京都新宿区荒木町10