富賀岡八幡宮 ― 2015年01月15日 21時05分28秒
荷風先生のように歩き出した僕は
曇天の下
巨大なショッピングモールを通り過ぎて
目的の神社に辿り着いた
80年前に永井荷風の歩いた道
砂漠のような埋立地も
汚い長屋建ての人家も
見つかるわけもなく
荷風先生は枯蘆と霜枯れの草の中に
荒廃した小祠を見つける
忽然と現れた古社に驚き
その偶然を喜んだ
先生はこのモノトーンの景色の中に
原色の女を見る
女が乗り込んだ乗合自動車に
先生もまた
追いかけるように乗り込んだ
女は洲崎パラダイスの大門前で下車する
休日に外出した娼妓であったと納得する
ただそれだけのことなのだが
砂町の寂しい風景と荒廃した小祠と
実家なのか此処に所縁のある娼家の女と
先生にはそれが
何か美しい物語に見えたのかもしれない
深川八幡祭りで有名な富岡八幡は
元々はこの砂町にある富賀岡八幡を
深川へ遷したものだという
元八幡とも呼ばれ
門前に繁華街が開け多くの人を集める有名な神社の
言わばオリジナルであると主張する
住んでる人でもなければ
今も昔も
わざわざ訪れるような場所ではないが
荷風先生の頃とは違って
社殿は綺麗に整えられ
立派な富士塚もある
そこそこ魅力ある神社である
オリジナルの主張など逆に鼻に付くぐらいだ
遡れば
この地が開拓される以前
恐らくは幾つかの小島が点在する海原が広がり
清和源氏の関東への勢力拡大に伴って
小島の一つに八幡神をマーキングしたのだろう
どおってことないと思われていた土地が
俄かに歴史の大舞台に転換する
荷風先生の残した美しいストーリーや
古につながる歴史を
真面目に追求し語ることを
神社だけでなくこの地域の
売りにしたらいいのにと少し思った
話は飛ぶが
地方創生に多額の国費が投じられるらしい
センスのないゆるキャラばかり作って
皆んなで横並びしてないで
それこそ古代から連綿とつながる
独自の歴史と美しいストーリーを堂々と
語ってくれる町づくりなんていいと思うが
日本中できっと驚くほどの地域の個性に
気づかされると思うのだが
荷風先生のように都バスに乗った僕には
曇天の下
原色の女など現れる筈もなく
PASMOがうまく使えないお婆さんが
ようやく降りることができたのを
ただずっと眺めていた



富賀岡八幡宮
東京都江東区南砂7-14-18
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