鷲神社2015年02月08日 15時42分07秒


金龍山浅草寺の祭り
鷲明神の酉の市
何かとイベントにかこつけて皆
ここ新吉原を訪れる
夜中まで乱痴気騒ぎは終わらない

不夜城と呼ばれた新吉原
当時は夜八つと言ったそうだが
深夜二時にもなると
見世の大戸は降ろされ
水道尻秋葉社の常夜灯の炎以外は
動くもののない
音のない世界が拡がる

だけど今日は普段と違ってた
ギィギィと鈍い音を立てて
跳ね上げ橋が降ろされる
お歯黒どぶに橋が架かる
見窄らしいなりをした男が二人
片棒担いで大きな桶を運び出した

梅毒だろうか結核だろうか
死んだ花魁は大門からは出られない
普段は開くことのない不浄門
棺桶を担いだ男二人がそこを通って
畑の道へ出る

鷲明神の裏手だろうか
その道筋は今ではよくわからないが
田地の先
浄閑寺へ花魁の遺体は運ばれる

真夜中に棺桶を運ぶこの男たちは何者だろう
見世のスタッフだろうか
周辺に住む農民だろうか

死をケガレと捉え忌避された時代
ましてや
ディズニーランドを遥かに超える夢の世界で
徹底的に死は隠される
スタッフだろうと誰だろうと
死体になど決して触れたくない

暇な方は江戸切り絵図
新吉原周辺を見ていただきたい
正方形を45度程傾けたような街路形状
一番下隅に何も書かれていない長方形の空間が
ぴったりくっついているのに気づく
ここには非人頭である車善七の居宅があった

居宅のある敷地の中には
車善七の手下達も住んでいる
車善七はそんな非人達を統括する管理者であった
物乞いはもちろん
屑拾いといった清掃に始まり
処刑の執行さらには死体の処分などを指示した
吉原で死んだ遊女の運搬も彼らの仕事であった

近くの紙洗橋で墨を落とした古紙が山のように積まれ
廓内で客のこぼした酒を集めてここで売った

廓内の九郎助稲荷のあたりから
この車善七の居宅が
よく見えたのではなかろうか
狂宴に酔い痴れる人々への戒めに
意図的に彼らをここに置いたのかもしれない

身分と職業がイコールであった時代
現代のものの見方では到底理解できるものではないが
それはケガレをキヨメるという宗教性を内包する
歴史的に構築され組織化された社会システムであった

鷲神社の向こうに
区立台東病院のきれいな建物が見える
都立台東病院の廃止後に建ったものだ
都立病院は元々は明治時代に娼妓の性病専門で
警視庁が設置した吉原病院がその前身だ
組合事務所と隣接して
仲ノ町通りの先を
行き止まりのように塞いでいた

浄閑寺へも立ち寄る
娼妓たちの埋葬は戦後も続いていたという
その数は300年間に二万数千に及ぶらしい
墓地を奥へ進むと新吉原総霊塔がある
カメラを向けると
またしても何故かシャッターが切れない
やはり寺とは相性が悪いらしい

鷲神社

鷲神社

鷲神社
東京都台東区千束3-18-7

浄閑寺

浄閑寺 新吉原総霊塔
東京都荒川区南千住2-1-12

水稲荷神社〜将門調伏①2015年02月15日 13時58分46秒


将門は無敵だ
あいつの全身はまるで鋼なんだ
弓矢など屁の役にも立たない
お前はあいつの弱点を知っている
桔梗
あいつへの情がまだ残っているのか
何てことだ
桔梗
こっちへ来い
お前はもう俺のものだ
桔梗
言え

平将門が最も寵愛したという妃
桔梗は俵藤太秀郷に内通し
将門の秘密を教える
秀郷はしかしその後
桔梗を殺す

俵藤太秀郷は生没年不詳とされているが
将門を討った頃はかなりの高齢だったそうだ
百足退治の頃は快活な若者だったのだろうが
そんな片鱗は既になく
敵の妻をネチネチとたらし込む狡猾な印象
いつの世も老人のイヤラシさは救いがない

将門を討ったことで
彼は朝廷から絶賛を浴びたことだろう
なにせ将門謀反の報に宮中は大騒ぎで
歌を詠んだり蹴鞠をしたり
夜這いをするしか頭にない無能な貴族連中は
まるで絵に描いたように
あたふたするしかなかったのだから

朱雀天皇は将門滅亡を七大寺に祈祷させ
八大明神に調伏祈願を命じた
日本中で護摩を焚いたり呪文が鳴り響く
成田山新勝寺もこの時
将門調伏のため創基されたという

早稲田にある水稲荷神社も
将門調伏の伝説を持つ神社だ
将門討伐の翌年
俵藤太秀郷が富塚の地に稲荷大神を勧請したという
戦勝を記念したというが
何故こんな武蔵の国の古墳の上に
神社を建てるのが戦勝記念なのか
よく考えると
よくわからない

将門の寵妃桔梗の屍が埋められた土地には
桔梗の花は二度と咲かないと言われている
そんな桔梗の伝説は関東の広い範囲で伝播した
そして事実は様々な虚構へと変容していく

実は桔梗は秀郷の妹であった
桔梗の口を封ずるため秀郷が殺した
将門に桔梗が靡いたため嫉妬で秀郷が殺した
桔梗が密通したことを知り激怒して将門が殺した
優しさを失った将門を嫌い桔梗は自害した
などなど

桔梗は将門を裏切った悪女であるとか
秀郷に無理矢理手篭めにされた悲運の姫だとか
様々な伝承に様々な解釈で様々な物語が生まれたが
将門と桔梗の二人はやはり最期まで
お互いを思い続けていたという
ベタな結末を期待したい

今だって
大手町の将門首塚の傍には
皇居の桔梗門がそっと寄り添っているのだから

水稲荷神社

水稲荷神社

水稲荷神社

水稲荷神社
東京都新宿区西早稲田3-5-43