金山神社2014年11月08日 16時37分28秒


俺は炎を見つめている
燃え盛る炎
形と色で俺はわかるんだ
俺は炎を見つめている
片目を瞑って
見つめている
もうじき
この目もやられるだろう
俺の親父や爺さんがそうだったように
俺の一族が昔からそうだったように
ヒトツメに
ヒトツメになる定めなのさ

技術者集団は半島からやってきた
風を読み
地形を読み
西北の風が吹く山の斜面が選ばれた
タタラが幾つも作られ
そこから産み出される
ピカピカに光り輝く鉄や銅に
人々は驚愕した

人々にとって
彼らは全くの異人であった
片目のつぶれた者
片足を失った者
異形の者たちはしかし
魔法のように鉄や銅を作り出す
彼らは神であった

権力者たちはこぞって彼らを取り込んでいく
巨大な銅剣は力の象徴
鉄や銅で兵士は武装し
鉄製の農具は一気に農地を拡大させた
農耕の神と金属の神の融合
それはいつしか
天皇の系譜へとつながっていく

長い歴史の中でしかし
製鉄の技術は珍しいものではなくなっていった
技術者たちはあくまでも職業人であり
坦坦とその技術が次代へ受け継がれていく
神は神社に収まり
職業人が仕事の無事を祈る信仰施設となって今に至る

江戸の町の鍛冶屋や鋳物師は
お稲荷さんを信奉していた
お稲荷さんも実は金属神という説もあるが
江戸の職人がそれを知っての話でもないだろう
鉱山があったわけでもない江戸の地に
古くから金属神が伝わっていたわけもなく
代表的な金属神を呼び招くほどの
強い職人集団など存在しなかったということだろう
お稲荷さんを代替に毎年11月8日
みかんを配るふいご祭りが執り行われたそうだ
あるいは
江戸の為政者が金属神を嫌ったのかもしれない
治水に悩む江戸の町には
水を生む金は忌避された
というのは私の想像だが

東京における代表的な金属神の登場は
戦後を待たねばならなかった
昭和27年に東京金物同業組合によって
岩本町に金山神社が勧請された

金山神社には
岐阜県にある南宮神社の祭神
金山彦命カナヤマヒコノミコト
金山姫命カナヤマヒメノミコト
が祀られている
火の神カグツチを産んだイザナミが苦しむ中
嘔吐した吐瀉物から生まれた神だ
溶融して流れ出す鉄のイメージだという

古代において
異形の神と畏怖された技術者は職業人として
神格は職業人の信奉する神社として
今の世につながる
だが
人々の驚愕し畏怖した想いは
行き場を失った
それは
そのポテンシャルを保ったまま正負を逆転させ
ヒトツメコゾウ
イッポンダタラ
という妖怪となって
今でも時々
子供達の間でブームを巻き起こす




金山神社
東京都千代田区岩本町2-1-5

榎第六天神〜縁切榎2014年11月15日 21時45分56秒


日夜ストーカーやDV男に悩まされる人達
腐れ縁で離婚できない人達
嫌いな上司の顔も見たくないと思ってる人達
板橋の縁切榎は
そんな悪縁を断ち切ってくれるご利益のある
超有名な信仰施設だ

小さな空間に
溢れるように絵馬が吊るされ
その絵馬には夥しい文字で
悪縁への想いが綴られている
こんなにも
誰かとの関係を断ち切りたいという想いを抱いて
人は生きているものなのかと
少し驚く

小祠にはあの第六天が祀られている
縁切りと第六天
全く繋がらないが
何故だろう

縁切寺というのが存在していた
単なる縁切りの祈祷所なんかではない
女性からは離婚が不可能だった時代
この寺に駆け込み
3年経つと離婚は成立するという
そんな社会システムが存在していたのだ

恐らく離縁を望み逃亡を図ったのだろう
門前で男に捕まりそうになっている女性が
自分の草履を門内に放り込む絵が残っている
これで縁切りは成立したという
男はチクショウと地団駄を踏んで
すごすごと帰ったのだろうか

為政者による統治が及ばない空間
無縁所あるいは公界所と呼ばれた場所は
寺院だけでなく市や宿
さらには堺のような自治都市として
存在していたという

親類や主従関係の縁を断ち切り
逃亡した人達は
その境界を超えることで
ある意味自由を獲得したのだろうか

縁切りできますようになどと
お祈りして満足するような
甘っちょろいものでは
なかったことだけは確かだ

江戸時代の古地図を見ると
縁切榎のある場所は
中山道に面した板橋宿の最果てにあたる
恐らくは
無縁所の機能を有した空間がそこにあった
さらには
その象徴として第六天が祀られていた
ということだろうか

今では第六天信仰の本質は
謎に包まれているが案外
第六天は無縁所として機能していた
明治政府はそれを嫌い破壊した
というのが真実なのかもしれない
というのは私の勝手な説



榎第六天神(縁切榎)
東京都板橋区本町18

胡録神社2014年11月27日 22時50分33秒


整然としたマンション群
規格された街路
どこか高い所で
母親が布団を叩く音
呆然と
いつまでも横断歩道を渡れない
手押し車の老婆

大規模な再開発によって
生まれ変わった街
区画割から全て真っ更に
過去の名残をほぼ完全に消し去った街

この無機的な空間を打ち破るように
忽然と
神社が現れる
木造の社には
またもやあの第六天が鎮座する

戦に敗れ流れ着いた武士団
彼らはこの地を開墾し
ここを永住の地とした
江戸切り絵図では
この地が田んぼであったことを確認できる

明治以降だろうか
徐々に民家が増え始め
昭和の航空写真では
密集した民家が町を形成しているのを確認できる

空襲を逃れたこの町は
戦後も長くその雰囲気を保ち続け
ノスタルジックな町全体を文化財さながらに
メディアが取り上げたこともあったという

江戸の端っこ
川のカーブの末端
逃げてきた者にとっては相応しい地であったろうか
恐らくは
他社の侵入を排し
為政者の支配を拒み
独自のルールの下
彼らは生活を続けた
時に
外界で生きられない者が境を超える
第六天がそんな人々を受け入れる

閉ざされた世界とその境界は
行政と巨大資本の結託でほぼ完全に破壊された
密集した木造建築は次々に解体撤去され
一時は茫漠たる草地が広がっていたという
住民は懐かしい住み慣れた家から
等価交換によるマンション住まいを選択した
町の境界は消え去り
人々はハコの中の閉空間を目指す

第六天が結びつけるコミュニティが
今も有効なのかは私は知らないが
少なくともこの立派な木造の社は
土地の記憶を亡霊のように蘇らせ
どこまでも自閉していく時代に抗う

胡録という名前は
尤もらしく色々言われているが
ダイロクテンの大が駄目なら小にするさ
ってくらいな話なんじゃないかな
胡という字には
「でたらめ」「いいかげん」という意味もあるらしい
あなたたちが禁じるダイロクテンではない
でたらめなロクテンなのさと
なんとも人を食ったネーミングではないか
権力者の力には
こうやって抗うべきだ



胡録神社
東京都荒川区南千住8-5-6