海神稲荷神社2018年10月14日 17時51分31秒


街は賑わった
ネオンは永遠に消えることがなく
酩酊と興奮に塗れた男共が
鼠の様に街路に溢れる

街灯の柱に凭れる男
燐寸の匂いにふと我に帰る
見上げると巨大な楼閣
まだ新しい木造の格子に
女の白い顔を見た

昭和3年
街道沿いに点在していた遊女屋を集約して
船橋の海神新地はオープンした
東京から遠征してくるほどの賑わいだったらしい
娼妓は何故か
山形県出身者が多かったという

空襲で焼けることもなく
近年まで妓楼の建物が残っていたらしいが
訪れたその地には
真新しいマンションが並んでいるだけだった

戦後
遊廓は赤線へと移行したが
それも束の間
今ではストリップ劇場も撤去され
ただの住宅街へと街は変貌していく
ひび割れたアスファルトの先に
子供用の自転車が停まる家々の中に
外壁を緑色に塗ったソープランドが現れる
たった1軒だけが取り残された姿は
異様で悲しい

意図されたものなのだろうか
妓楼の撤去された跡に
一本だけ当時の街灯と思われる柱が残っている
粗骨材を露出する風化したその柱は
それでもいつでも証言台に立ってやるさと
堂々とした風采で屹立している
赤黒く錆びて盛り上がった金属の枠材は
まるで老婆の女陰の様に
ぱっくりと口を開けて誰かを待っている

コンクリートやアスファルトでは
きっと此奴らを埋めきれない
土地が記憶している
男の孤独も
女の悲しみも
情念も怨恨も狡猾も狂気も
流した汗も涙も体液も
全部
染み込んで拭えやしない

恐らくは
遊廓の末端あるいは外側であった場所に
海神稲荷神社がある
境内で若いお母さんが小さな女の子を遊ばせている
遊女が娼妓がここをお参りしたかなんて
もう誰にもわかりゃしない

海神稲荷神社

海神稲荷神社

海神稲荷神社

海神稲荷神社

海神稲荷神社
千葉県船橋市海神1-22

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