玉姫大神〜ココニイルコトヲシル32015年10月31日 14時05分24秒


その神社の鳥居は奇妙に傾き
木造の拝殿は悲壮に朽ちる
どれだけ放置されたのか
金網の向こうで小祠は風化し
頑強な鎖で固定した
賽銭箱だけが生きている

武士の世は終わりを告げ
丁髷を切った田舎侍が
偉そうにほざいている
これからは心よりモノだよと
西欧の大量生産技術だよと

牛のように巨大な産業機械
電動機は狂ったように高速で回転する
動力を伝達するのは
動物の皮でできた革ベルト
軍靴とともに爆発的な需要が産まれる

明治の世
イカスリの神を抱くあの渡辺村は
西浜部落と呼ばれるようになった

西浜部落は皮革の流通と生産の拠点として栄えた
日本中から皮革を積載した船が此処に集まり
皮革製品が日本中へ送り出される
自ずと資本が此処に集中する
周辺に金融機関が群がる
富国強兵の恩恵が降り注ぐ

戦争が終わり軍人が消え
廉価なゴムベルトが普及する
皮革製品や原料は専ら
外国からの輸入に取って代わられた
ルイヴィトンのバッグが
何処か遠い所で
動物の皮を剥いで作られていることを
知ってる女はいない

弱者であることを強みに
金が流れる仕組みが出来る
融和など程遠く
誰もがその前で押し黙る

まるで取り残されたような玉姫大神
その神社に隣接する玉姫公園
1億1100万円費やされた
からくり時計のモニュメント
公園はとても綺麗に整備されている
神社も一緒に整備できなかったものか
信仰施設に公金投入はさすがに無理か

どんな願いや祈りが込められただろう
この荒廃した神社は
今ではもうこの街の
コミュニティが崩壊していることを
表出しているように思えてならない
そして
もうお互いに疲弊した大人達に
打つ手はない
重苦しい歴史の限界なのだ

帰り道
二人の少女が自転車で信号待ち
横を過ぎるスクーターに
あのバイク、信号無視やで
ほんまやなと
なんとも楽しそうに
旧渡辺道を旧市街地に向かって走りだす
そこにきっと
子供達の未来がある

玉姫大神

玉姫大神

玉姫大神

玉姫大神
大阪府大阪市浪速区浪速東3-13-12