榎木大明神 ― 2016年01月31日 16時33分06秒
熊野へと続くこの道
傍らには大木が聳え
木陰で人は休んだり喋ったり
何年も何年も
もうずっと長い間
数え切れないほどの人が
熊野へと続く
この道を往く
到達点は海だ
果てなどわからない
その海の向こう
補陀落フダラクという
観音菩薩の住む
老病死とは無縁の
憧れの地があるのだそうだ
憧れやまぬ人々は
無謀にも海に繰り出す
憧れ抱く人々は
果たして恋い焦がれたあの地を
踏むことができたであろうか
誰一人帰ってきた者はないので
それは誰にもわからない
皇帝に気に入られようと
不老不死の妙薬を求め
わざわざ大陸から来た者もいた
莫大な資金を拠出させた
稀代の詐欺師は
何を思いこの道を往っただろうか
都市が発展するに伴い
死は隠蔽されていく
いつの間にか人は
不老不死を疑わない
ビルに挟まったこの坂を登りきる手前
大木と小祠は
きっとそいつを引き剥がす
誰が死から逃れられようか
皇帝も将軍も
親しい人も
そして己れも
さよならの悲しみを背負い
来た道を還る
傍らの大木を見上げながら



榎木大明神
大阪府大阪市中央区安堂寺町2丁目
玉姫大神〜ココニイルコトヲシル3 ― 2015年10月31日 14時05分24秒
その神社の鳥居は奇妙に傾き
木造の拝殿は悲壮に朽ちる
どれだけ放置されたのか
金網の向こうで小祠は風化し
頑強な鎖で固定した
賽銭箱だけが生きている
武士の世は終わりを告げ
丁髷を切った田舎侍が
偉そうにほざいている
これからは心よりモノだよと
西欧の大量生産技術だよと
牛のように巨大な産業機械
電動機は狂ったように高速で回転する
動力を伝達するのは
動物の皮でできた革ベルト
軍靴とともに爆発的な需要が産まれる
明治の世
イカスリの神を抱くあの渡辺村は
西浜部落と呼ばれるようになった
西浜部落は皮革の流通と生産の拠点として栄えた
日本中から皮革を積載した船が此処に集まり
皮革製品が日本中へ送り出される
自ずと資本が此処に集中する
周辺に金融機関が群がる
富国強兵の恩恵が降り注ぐ
戦争が終わり軍人が消え
廉価なゴムベルトが普及する
皮革製品や原料は専ら
外国からの輸入に取って代わられた
ルイヴィトンのバッグが
何処か遠い所で
動物の皮を剥いで作られていることを
知ってる女はいない
弱者であることを強みに
金が流れる仕組みが出来る
融和など程遠く
誰もがその前で押し黙る
まるで取り残されたような玉姫大神
その神社に隣接する玉姫公園
1億1100万円費やされた
からくり時計のモニュメント
公園はとても綺麗に整備されている
神社も一緒に整備できなかったものか
信仰施設に公金投入はさすがに無理か
どんな願いや祈りが込められただろう
この荒廃した神社は
今ではもうこの街の
コミュニティが崩壊していることを
表出しているように思えてならない
そして
もうお互いに疲弊した大人達に
打つ手はない
重苦しい歴史の限界なのだ
帰り道
二人の少女が自転車で信号待ち
横を過ぎるスクーターに
あのバイク、信号無視やで
ほんまやなと
なんとも楽しそうに
旧渡辺道を旧市街地に向かって走りだす
そこにきっと
子供達の未来がある



玉姫大神
大阪府大阪市浪速区浪速東3-13-12
天龍大神〜地図にない街4 ― 2015年09月06日 17時53分56秒
男達は降りていく
無言のまま
紫の灯りの溜まる底の方へ
男達は降りていく
夜の底の底の方へ
古代の空には
鳶が飛び交い
非人が引きづる罪人の死骸を狙う
墓石の向こうに
五重塔が見える
寄る辺もない
捨てられた魂には
朝廷も寺院もなす術がない
せめて縋るのは
出自不明の龍神が相応しかったのか
明治の淫祠邪教の排斥にも
ほとんど相手にされなかったのか
都市は膨張し
非日常は外側へ追いやられる
鳶の飛び交う墓場の上に
巨大な飛田遊郭は出現した
破壊の後の非日常的な日常から逃れるべく
あの懐かしい非日常の世界へ人は集まる
外力によるパラダイムシフトへも
他に類のないメタモルフォーゼを遂げ
孤高の街が完成する
街は高い壁と龍神の結界に囲まれ
今はもう
地図にその名が刻まれることはない
女子供は決してここに
入っちゃいけない
消毒がじわじわと近づいている
広大なショッピングモールと
綺麗なマンション群が
結界の街を取り囲む
女子供がカラカラと笑う
横を通り過ぎる静かな男達には
頼むから構わないでくれ
男達は降りていく
夜の底の底の方へ


天龍大神
大阪府大阪市西成区山王2-1-19
甚内神社〜鳥越幻影① ― 2013年06月23日 19時06分27秒
怪力無双の大泥棒、向坂甚内は
瘧オコリ(マラリア)でへろへろのところを
捕縛された
オコリにさえならなければ、畜生
と甚内は悔やみ
死んだ後俺はオコリの神になってやる
と処刑の前に叫んだという
処刑場は鳥越に在った
家康の入城後
日本橋に在った処刑場を鳥越に移している
処刑場の周りには
穢多頭の弾左衛門と非人頭の車善七の居住地が置かれ
彼等が刑の執行と後始末とを担った
甚内の強靭な体は
並の刀では切ることが出来ない
甚内は磔にされ
自分の所有物であった槍で突かれ
息絶える
その後罪人を引き回す際
弾左衛門配下の者が
その槍を担いで先頭に立つのが通例となった
鳥越川の岸に甚内の墓が作られ
オコリが治ると参詣者が後を絶たず
墓はいつしか神社となって今に至る
貧しく虐げられた人々にとっては
怪力無双の大泥棒が
最高のヒーローだったのかもしれない
瘧オコリ(マラリア)でへろへろのところを
捕縛された
オコリにさえならなければ、畜生
と甚内は悔やみ
死んだ後俺はオコリの神になってやる
と処刑の前に叫んだという
処刑場は鳥越に在った
家康の入城後
日本橋に在った処刑場を鳥越に移している
処刑場の周りには
穢多頭の弾左衛門と非人頭の車善七の居住地が置かれ
彼等が刑の執行と後始末とを担った
甚内の強靭な体は
並の刀では切ることが出来ない
甚内は磔にされ
自分の所有物であった槍で突かれ
息絶える
その後罪人を引き回す際
弾左衛門配下の者が
その槍を担いで先頭に立つのが通例となった
鳥越川の岸に甚内の墓が作られ
オコリが治ると参詣者が後を絶たず
墓はいつしか神社となって今に至る
貧しく虐げられた人々にとっては
怪力無双の大泥棒が
最高のヒーローだったのかもしれない


甚内神社
東京都台東区浅草橋3-11-5
太田神社 ― 2013年04月28日 17時34分31秒
世界が暗闇に閉ざされた中
炎が灯されたステージに
強烈なビートが鳴り響く
髪の毛を振り乱し
汗を撒き散らしながら
天鈿女命アマノウズメノミコトは 踊り続ける
乱れた衣服から遂には乳房も女陰も露に
ステージは絶頂を迎え
オーディエンスは総立ちで盛り上がる
そんなウズメちゃんが牛天神北野神社の境内社として
夫の猿田彦命サルタヒコノミコトと一緒に祀られている
しかしこの神社
元は暗闇天女という貧乏神が祀られていた
名前からして怪しい民間信仰のいわゆる淫祠というやつだろう
ウズメちゃんが登場したのは
淫祠迫害からの逃避策だったのかもしれない
しかもさらに合祀社である高木神社の祭神はあの第六天
男気溢れるウズメちゃんは
オロオロするサルタヒコを尻目に
たぶんこう言った
アンタ達、行くところがないなら
ここにしばらくいなさいよ
道真のダンナには
アタシが話をつけてあげるから
炎が灯されたステージに
強烈なビートが鳴り響く
髪の毛を振り乱し
汗を撒き散らしながら
天鈿女命アマノウズメノミコトは 踊り続ける
乱れた衣服から遂には乳房も女陰も露に
ステージは絶頂を迎え
オーディエンスは総立ちで盛り上がる
そんなウズメちゃんが牛天神北野神社の境内社として
夫の猿田彦命サルタヒコノミコトと一緒に祀られている
しかしこの神社
元は暗闇天女という貧乏神が祀られていた
名前からして怪しい民間信仰のいわゆる淫祠というやつだろう
ウズメちゃんが登場したのは
淫祠迫害からの逃避策だったのかもしれない
しかもさらに合祀社である高木神社の祭神はあの第六天
男気溢れるウズメちゃんは
オロオロするサルタヒコを尻目に
たぶんこう言った
アンタ達、行くところがないなら
ここにしばらくいなさいよ
道真のダンナには
アタシが話をつけてあげるから



太田神社(北野神社境内社)
東京都文京区春日1-5-2
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